心中宵庚申

11月6日、11月文楽公演の第2部、近松門左衛門の「心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)」を観てきました。実際に起こった事件だそうですが、夫婦の心中事件を題材にしています。

チラシは2枚あって、1枚は第1部の鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)でしたが、こちらのチラシは心中宵庚申の女房・お千代です。

いつものプログラムとミニ床本です。

プログラムにはいつも太夫、三味線、人形遣いの人たちの顔写真が掲載されていますが、今回、人形遣いの写真ページには、7月に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された吉田和生が吉田簑助の隣、最上段に二人並んで掲載されていました。

今回の楽しみは、半兵衛(人形=吉田玉男)と女房・お千代(桐竹勘十郎)、お千代の父・平右衛門(吉田和生)、お千代の姉・おかる(吉田簑助)の4人が同時共演する「上田村の段」です。

ストーリー(文化デジタルライブラリーにあります)は省略しますが、上田村の段で、勘十郎の遣うお千代が実家に戻ってから、簑助のおかる、和生の平右衛門らといろいろあって、みんなが舞台から消えたところに玉男の半兵衛がやって来ます。そこで奥から出てきた「おかる」が吉田簑二郎に遣われていたので、びっくりしました。

最初は誰が出てきたのかわからず、人形遣いの担当を眺め直しました。でも、おかる以外にはあり得ないので、先ほどまでの簑助に何か事故でもあったのかと思い、この段が終わった休憩時に案内の人に確認しました。「簑助さん、途中で簑二郎さんに交代しましたけど、何かあったんですか?」「実は足を怪我されていまして、今日は大事を取って途中交代となりました」ということでした。明日からは足の状態を眺めてから決めるとのことでした。

ということで、4人の人気人形遣いの同時共演は実現しない日となりました。吉田簑助は20年ほど前に脳出血で倒れてからのリハビリで復帰して、今は84歳ですから、わりあい短い登場時間の人形を担当しているように思います。早く回復してもらって、次の機会を楽しみに待つこととしました。

心中宵庚申の結末は、元武士だった半兵衛が身重のお千代を刺し殺し、自害するのですが、まあ、現代から眺めていると納得はできないため、共感の涙は出ません。心中物(世話物)は道ならぬ恋と罪の精算が多いのですが、この二人、お千代の実家に戻ることはできなかったのかと考えてしまいます。そういう現代風の眺め方をしてしまうのが、いいのか、悪いのか、古典劇の鑑賞態度の問題ですね。

この演目だけでは時間不足なのか、気分替えのためなのか、30分の休憩(席で食事します)の後、短い演目「紅葉狩」が追加されていました。能の紅葉狩は好きな演目ですが、文楽は初めてです。能から歌舞伎に移植されて、さらにそれを文楽に移植したという感じが濃厚で、なかなか派手な演出になっています。

紅葉狩で気がついたことは、太夫5人が並んだ末席に、今年1月に文楽研修生修了発表会に出ていた太夫の卵が裃姿で出演していたことです。もう舞台でがんばっている、というのを眺めて喜んでいました。人形遣いの新人2人は出演していても黒衣だし、名前は出ないので、わかりませんでした。