Bachmann 38-ton Shay

Bachmann(バックマン)製のGゲージ機関車、シェイ(38-ton 2-truck Shay)です。

シェイ(Shay)という形式の機関車は、アメリカ人のEphraim Shayが1877年ころに発明し、シェイ氏の特許の元でLima(ライマ)社が主に製造していました。機関車中央部に置かれた蒸気機関のピストン上下運動を回転運動に変えて、前後の台車にシャフトとギヤ(傘歯車)で動力を伝達して走ります。ギヤ式機関車という分類です。

片側にだけピストンが並んでいて、左右が非対称の面白い機関車です。すべての台車の全輪駆動なので勾配と曲線に強く、用途は森林業です。

中央にあるピストン部分だけのアップ写真です。自動車に使われるレシプロエンジンのような、面白い仕組みです。ピストンの下に前後の台車に回転を伝達するシャフトが見えています。

台車への動力伝達部分です。笠歯車が見えています。

まあ、電動模型ですから、動力伝達の方向は逆で、モーターはそれぞれの台車に組み込まれていて、シャフトとピストンを動かしています。

左右が非対称になっている雰囲気を眺めてみます。
正面です。

ボイラーが右に寄っています。最初の写真がピストンのある側面でしたので、逆の側面です。

こちら側には複雑な機構はありません。ランニング・ボード(ボイラー横の通路:歩み板)の下にホースが取り付けられています。これは自力で水を汲むためのようです。

シェイ機関車は、重さと、連動して駆動される台車(truck)の数で分類されていて、この機関車は38-ton 2-truck いう中くらいのサイズです。小さいのは6トンから、大きいのは160トンまで、2台車から4台車まで、総計2,770両が製造されたそうです。

シェイ機関車の実物を見たことはありませんが、シェイの後に開発されたギヤ式機関車で、モト・グッツィ(Moto Guzzi)のオートバイみたいなV型シリンダーが特徴のハイスラー(Heisler)機関車は、1982年にワシントン州のレイニエ山の景観鉄道(Mount Rainier Scenic Railroad)で触らせてもらったことがあります。この機関車は3つの台車を駆動しています。

現在、この鉄道にはギヤ式の機関車(シェイ、クライマックス、ハイスラー)が揃っているようですが、当時はハイスラーしか見かけませんでした。BachmannはハイスラーのGゲージ模型も出していましたが、すでに廃版となっていて入手困難でした。

Ely-Thomas Lumber Co.という会社の6番機関車は、1927年にLima社が製造し、いくつかの会社を転々として、1947年にEly-Thomas Lumber Co.が購入したようです。その後、1955年以来、ニュージャージー州の交通博物館が保管しており、現在は修理を待っているようです。

Lima社が製造したシェイ機関車が日本の森林鉄道でも走っていたことがあるようです。「日本における森林鉄道用蒸気機関車について」(小熊米雄 北大農学部演習林 1961)を読むと、1907年(明治40年)製造の13トン級シェイ機関車が1908年に津軽森林鉄道に配置され、期待はずれの性能だったことが紹介されています。

小熊氏が関係者から聞き取りした内容が面白いので、引用します。
「この機関車はボギー式になっていて、 当時においては珍らしいものであって、 これは牽引力が強大で山地急曲線が円滑であるという理由で試験的に採用されたが,使用の結果は駿走軽快ならず,且っシリンダが1側にあって垂直に動き,枕木を損傷するとか,小砂が飛び込むとか色々取扱い上苦情が多く」、また「運材列車は1回牽いたが,丸太が抜けたので,その後は専らバラス撒布に使った」

その後、1918年に高知県の高知大林区署へ移管されたこと、高知でも期待はずれの性能だったこと、1925年に廃車されたこと、などが記されています。なお、途中で台湾の阿里山に移った可能性も指摘されています。

日本では期待はずれの機関車だったようで、日本の線路や整備などが性能を発揮させられなかったのか、よくわかりませんが、アメリカではそれなりの評価が得られており、現在も少なくとも116両が保存されているようです。

この模型を作っているBachmannはフィラデルフィア発祥ですが、現在は中国(香港)系のメーカーで、アメリカ車両を中心に、Nゲージ、HO、そしてこのサイズも作っている、メルクリンに対抗しようとしている勢力と言われていましたが、まあ、低価格路線です。そのことから、当鉄道のHOではDCCの分岐器はすべてBachmann製にしています。

このサイズは一般にはGゲージと呼ばれていますが、BachmannはLarge Scale(Big Hauler)と呼んでいます。元来のGゲージであるLGBの縮尺1/22.5に対して、Bachmannは縮尺 1/20.3で、一回り大きいサイズです。

購入当時(今世紀初頭)、Bachmannの車両模型は、評判はそれほど悪くないのに、なぜかアメリカの多くの模型店で定価の5割引以上という価格設定になっていました。これはeBayでの購入でしたが、本体271ドル+送料25ドルで、NかHOの機関車なみの値段でした。

まあ、LGBのがっちりした作りと比べると、簡易で安っぽい感じを受けますが、精度は悪くありません。今でも、他のメーカーと比べると値引率は高いようです。Bachmannのこのモデルは廃版となって、現在は55-ton 3-truckのシェイが高価な値付けで出ています。

届いたシェイはとても大きく、重く(4.4kg)、そして華奢でした。華奢というのは、全体のサイズ・重さからすると、プラスチックのパーツが細かく薄いという意味です。LGBなら厚いプラスチックで作っているようなところが薄いので、スケール感はあるものの、手で持つときに気を遣います。その分、LGBなら省略しているようなパーツが造り込まれています。基本はプラスチックですが、金属パーツやゴム、糸なども使っているところがあります。

サウンド・デコーダとしてESU社のLoksound XLがシェイのサウンドをライブラリとして持っていたため、DCC化するのはとても楽で、スピーカーもデコーダーも炭水庫の中に入れました。

スピーカーです。

なかなか迫力あるサウンドです。ここでコントロールしているのは、Android用のアプリ「Ecos Controller」です。とても便利です。以下の動画は音が出ます。

前照灯と尾灯はLEDでしたが、色味が悪いので取り替えて、運転室灯をLEDにして針金でカバーを取り付けました。

この模型の連結器にはバックマン式の自動連結器が取り付けられていました。

でも、LGBの車両も牽引させるので、LGBの連結器(簡単なカプラー)に取り替えました。

これでLGBの連結切り離し機も利用できます。LGBのカプラーはオモチャっぽいのですが、これはこれで嫌いではありません。

走行中の動画です。

札幌の庭木で作った木材がありますので、近いうちに貨車に積み込んで走らせる予定です。

 

LGB 2018D 2-6-0 Mogul

20年くらい前でしょうか、Gゲージという大きなサイズの鉄道模型を知りました。写真のみで模型の実物に触れたことはなく、試しに中古をアメリカのeBayで購入したのが、LGB(Lehman Groß Bahn:レーマンの大きな鉄道)製のモーガル(Mogul: アメリカの蒸気機関車)です。

モーガルは、2-6-0という車輪配置(先台車が1軸、動輪が3軸で、1Cとも呼ばれます)になっているテンダー機関車の呼称です。アメリカで1860年頃に生産が始まり、1910年頃まで1万1千両ほども製造されたそうで、名機と言えるでしょう。2-6-0+テンダーという機関車はアメリカに限らず、英国や日本でも製造されていますが、モーガルと言えばアメリカ、というイメージがあります。

モーガルという名前は生産開始直前まで続いていたムガール帝国から来ているようで、「おおもの」という雰囲気の意味です。これは当時の機関車としては牽引力が強かったことからのようです。

アメリカ製モーガルはかつて北海道で走っていて、開拓使時代の北海道の鉄道には欠かせない機関車でした。明治初期、札幌の北東にある幌内(ほろない:現在は三笠市幌内町)に優良な石炭が発見されて、その運び出しに鉄道線路が計画されました。そして、明治13年(1880年)に小樽港のある手宮から札幌までの区間が開通し、アメリカ人技師クロフォードが買ってきたポーター社製のモーガル2両が走り始めました。愛称は義経と弁慶です。

現在、義経は大阪弁天町の交通科学博物館から京都の梅小路蒸気機関車館(現・京都鉄道博物館)に移り、弁慶は神田万世橋の交通博物館からさいたま市の鉄道博物館に移りました。義経・弁慶の後に輸入された「しづか:静」は小樽交通記念館(現・小樽市総合博物館)に置かれています。

LGBは1968年にレーマン氏が設立したドイツの模型会社ですが、アメリカ車両を多く出していて、アメリカで相当の人気になっていました。今世紀に入ってから倒産の話が出てきて、予備パーツを買い込むなど、慌てましたが、2007年からメルクリン社のブランドとして復活しました。メルクリンも怪しくなりましたが、その後は落ち着いているようです。

LGBの車両は1/22.5という縮尺、軌間(線路幅)は45mm、会社名のGroßからGゲージと呼ばれていて、名前の通り大きな模型です。庭で走らせるために、電動ではありながら、雨に強い構造になっています。そのことから、車体の素材は厚めのプラスチック(樹脂素材は年代によって違うようです)でできていて、かなりの省略とデフォルメをしていますので、子ども向けのように見えますが、大きくて重い(4.1kg)ので、大人でも持ち上げるのはたいへんです。

銘板です。1884年のクック社製となっています。

ランニング・ボード(ボイラー横の歩み板)の裏にシールが貼ってあります。

LGB25周年のシールなので、1993年頃の製品なのでしょう。このLGBモーガル(型番:2018D)は1985年に出て、現在は廃版になっています。

変なところはいろいろあるようです。テンダーに薪を積んで、機関助手が運んでいる姿は可愛いのですが、製造された段階のモーガルは石炭のみを使い、薪を燃やす車両は存在しなかったそうです。保存車輌としては重油方式に改造されている場合があります。

この型番2018DのモデルはCooke社が鉄道会社DSP&P(Denver, South Park and Pacific Railroad)のために製造したそうです。Denver & Rio Grandeの鉄道名は、2018D発売後にいくつかの鉄道名のバージョンが売り出された一つです。初期のDSP&Pモデルではありませんが、カラーリングが好みという理由で選びました。

仮想的な姿とは言え、このモーガルはLGBらしい雰囲気が濃厚です。この車両を触るまでは、1番ゲージ(1/32)やHOゲージ(縮尺1/87)あたりの精巧さが好みだったのですが、Gゲージの楽しさからも離れられなくなりました。

最初はDCの電圧制御で始めました。LGBの線路や分岐器など一揃いをアメリカ通販で購入しましたが、制御器は自作しました。お気に入りのゼロセンター電圧計(中央がゼロで左がマイナス、右がプラスに振れます)は東京の小さな計器メーカーで作っていたものです。この制御器は分解したので、電圧計はNゲージ用に再利用しています。小さなトグルスイッチは分岐切替マシン用です。

後ろからの写真です。上に飛び出しているのは自動車用の手元照明を組み込みました。

15Vまで3Aの仕様で、少し電圧が低い目でしたが、部屋の端から端までの直線往復だけだったので、十分でした。

その後、機関車からサウンドを出す話題を知り、Phoenix社製のサウンドボード「BigSound 2K2」を注文し、テンダーに組み込みました。テンダーの底にはスピーカーの形の枠取りがありますが、穴は開いていませんでした。手前に置いているのがBigSound 2K2です。

この時までに、テンダー後部のカプラー(連結器)をKadee製品に替えていました。LGBのカプラーがおもちゃっぽかったからですが、その後、LGBらしさがいい、と思って戻しました。

DC仕様のサウンドボードには充電池が付いています。機関車が停止(電圧がゼロ)しても、何らかのサウンドを出すためです。写真の黄色いのが充電池です。

DC仕様では制御器で汽笛や鐘のサウンドを鳴らすことができないので、磁石でオンオフするリードスイッチを多用します。たとえば、機関車のピストンに合わせた音は、動輪の軸に磁石を貼り付けて、それにリードスイッチが反応して鳴らします。これはタイミングが正確なので、DCC仕様でも使う方法です。

次の写真は、ドリルでテキトーにスピーカー用の穴を開けた後、テンダーの車輪に機関車のブラスト音を出す磁石とリードスイッチを取り付けてみたところです。この車輪は動輪より小さいので、正確なタイミングにはなりませんが、機関車との配線がうまくできなかったためです。この頃は配線ケーブルとコネクターのレパートリーがありませんでした。

機関車の裏面です。

左が前です。第1動輪と第2動輪の間に金属板が付いています。これは集電板で、LGBの動力車の特徴です。電気を左右の車輪からだけではなく、この金属板を線路に接触させて、確実に集電できるようにしています。
右端の第3動輪の間にリードスイッチを2つ付けました。汽笛用と鐘用です。これらは線路の間に磁石を取り付けて、その場所を通るときに鳴るようにしました。

このように、DC仕様ですと、サウンドの自由度が低いように思いますが、汽笛や鐘は規則で決められた場所で鳴らしますし、また、2K2は入力電圧変化でサウンドパターンが変化するようなプログラムが入っているので、なかなか面白いものです。

2005年には、車両のDCC化を進めましたので、モーガルにESU社のDCCボードLokPilot XLを組み込みました。

BigSound 2K2のボードをテンダーから移し、LokPilot XLと一緒に機関車のボイラーの中に押し込みました。上がLokPilot XL、手前がBigSound 2K2です。

テンダーの中がスピーカーだけになってすっきりしましたが、今なら、2枚のボードをテンダーに入れたでしょうね。機関車のボイラー内部はギリギリの容量でした。

テンダー車輪に取り付けていた動輪回転同期用のリードスイッチも動輪に移しました。
ついでに、運転席に室内灯を取り付けました。これだけがLEDです。

以上で、初めてのDCC化は完了です。

この記事を書く機会に久しぶりに掃除と整備をしました。
動輪はけっこう汚れていました。

機関車の先頭にあるフラッグポールが剥げていました。

LGBは金色にメッキしている樹脂パーツが多く、経年変化でどうしても剥げてきます。買い置きがあったので交換して、きれいになりました。最近はメッキ風塗料があるので、その準備もしています。

以下は、現在のレイアウトでの走行動画です。すべて音が出ます。

ヤードを出発します。

牽引しているのは、LGBの客車と大型カブース(客室付き車掌車)です。モーガルが出る前のアメリカン(4-4-0)型という西部劇に出てくる機関車のほうがぴったりかもしれません。
客車の内部です。初めて車両に室内灯とフィギュアを入れました。室内灯の取り付けが荒っぽいです。

このサイズの模型になると、客車内にトイレとストーブまで置かれています。

フィギュアを入れると、なかなか楽しいものです。

トンネルから出てくるところです。

最後は、駅に到着です。

これらの動画では、速度しか手動制御していません。汽笛などの音はBigSound 2K2に組み込まれている速度感知プログラムで鳴っています。

このBigSound 2K2はLGBのモーガル用サウンドというので選んだのですが、汽笛音が迫力ありすぎ(和音構成)と感じていました。調べてみたら、ニューメキシコ州にあるCumbres and Toltecという保存鉄道の4-6-0あたりの機関車からの録音だとわかりました。

アメリカの保存鉄道でモーガルが走っているのをYoutubeでチェックしたら、けっこう2K2と同じような汽笛が鳴っていました。その後、Phoenixのサイトに別のモーガルのサウンドが加わりましたが、その汽笛音は単純な昔風(単音か二音)でした。

小樽のアイアンホース号や、京都で二度目の復活を果たした義経の汽笛は昔風の単音です。このあたりがオリジナルなのでしょうか。まあ、汽笛もいろいろあるようで、現在のサウンドに慣れてしまっているので、これはこれでいいことにします。

LGBモーガルは当模型鉄道での車歴がそろそろ20年になりますが、現在も快調に走っています。