スポーク交換と振れ取り

2020年9月12日

8月にブリヂストンのMTB「Wildwest」を整備しましたが、その際に気になっていた部分がありました。前輪左側のハブ部分の整備前の写真です。

この写真の下側、ハブの内側から出て左に回っているスポークが横に曲げられて固定されています。こんな細かな場所を見たのは初めてですが、この自転車は修理に出したことはないので、購入時からこの状態だったということになります。先月の整備ではこのままで清掃しただけでチューブ・タイヤを交換していました。

このスポークの状態は自転車販売店で何らかのトラブルがあって、このスポークだけを交換する必要があったのでしょう。でも、初心者がこのスポークを交換するためには、左側のスポークを半分近く外さないと無理ですね。ママチャリのニップル交換の時も、スポークを取り出そうとしたら、グニャグニャ曲げるか切らないと、1本だけを取り出せないし、挿入できないことを知りました。

30年前でも販売店で大手メーカー品のホイールのスポークを手組みすることは無かったのかもしれません。組まれたホイールのスポーク1本だけを交換するためには少し長いめのスポークを曲げて入れるしかなかったのでしょう。(その後、補修用のスポークとして、周りのスポークと干渉しないように曲げたものが販売されているのを知りました。)

ともかく、時効ですし、乗っていて違和感もありませんが、気になるという状態です。このスポークを交換するためには、経過年数を考えると、すべてのスポークを交換するのが良さそうに思います。

自転車の分解整備も今年になって初めての経験なので、そんな初心者がスポークをすべて交換するというのは無謀だろうなと思いつつ、いろいろと調べました。そうすると、キーになる用具が2つありました。1つは、スポークテンションの測定器で、もう1つは振れ取り台です。これらがあると何とかなるかも、何とかしたい、トライしてみたい、という気分になりました。

先ずは、現状のスポークのテンションがどうなっているのかを知ることです。普通はスポークを手で握ったりして調べるようですが、そういう比較経験がないので無理ですね。そこで、中国通販で2千円弱のスポークテンション測定器を購入してみました。

これはバネでスポークの張り具合を測定する簡単なもので、こんな感じで使います。

この写真では「15」と出ています。この目盛りの数字を添付の表でkgf(kg force)に換算できるようです。付属の換算表記載の測定器の目盛り(Readings)と換算値(kgf)とをグラフにしてみると、直径2mmの丸いスポークの場合は次のような関係になっていました。

測定器の目盛り表示は0から50までとなっていますが、この換算表には17から28しか出ていません。この範囲が2mm丸スポークの常用範囲なんでしょうね。グラフは二次式のようで、これは測定器のバネの特性でしょうか。

換算表の中央23が100kgfとなっているので、このあたりが標準(基本?)なのだろうと推測します。上の写真での測定表示「15」は低すぎて換算表には出ていません。

スポーク・メーカーのサイトには、テンションの推奨値とか最大値とかのデータは見つかりませんでしたが、シマノのホイールセットの説明書に参考となるような記述がありました。それによると、26インチあたりでは、前輪が60~100kgfくらい(目盛り表示で18~23くらい)、後輪の右が80~130kgfくらい(目盛り表示で21~25くらい)、後輪の左は60~90kgfくらい(目盛り表示で18~22くらい)のようです。上の換算グラフの範囲に入っています。

ただ、測定器が正確に校正されているかはわからないので、あくまでも相対的な値として考えて、目盛りの値だけを比較してみました。前後輪のスポークテンションをすべて測定してみると、なかなか興味深い結果でした。

テンションを測定する前に、スポーク番号を次のように決めました。

次の表中の「右」は進行方向に向かって右側のスポーク、「左」は左側です。左右18本ずつ合計36本のスポーク(36H)が使われています。

テンションは平均17弱で、負荷の小さい前輪としてもかなり低めです。換算表に載っている最低値なので、低すぎるのでしょう。kgfへの換算は2次関数なので、kgf換算してから平均を取るほういいのですが、精度を求める気はないので、気にしないことにします。なお、「前後合わせた平均」というのは、当該スポークとその両隣のスポークを合わせた3本の平均です。

左右の全体平均はほぼ同じ値になっていますが、個別のスポークテンションはかなりバラバラな値(6から22.5の範囲)になっています。赤字にしたのが「テンションが低すぎる」と思える箇所です。なお、例の曲げられたスポークは左7で、テンションは18.5で特に異常はなさそうです。

後輪の測定結果です。

右のフリー(ホイールハブ)側というのは7段ギヤ(スプロケット)のある側です。この表を作って、左右のテンションが大きく違うことに気がつきました。

構造を考えたら、後輪の左右差は当然であることを理解しました。タイヤ(ホイール)を中央に配置するためには、後輪の右はスプロケットがスポークの外側にある分、右のテンションを高めて、垂直に近い角度にしなければなりません。相対的に左のテンションは低くして角度を緩やかにするしかありません。これはオフセット組み(おちょこ組み)と呼ばれている基本だということを知りました。楽しい新知識です。

これからスポークの交換をしたいのですが、「振れ取り台」という調整用の用具が必要になるようです。まあ、自転車を逆さまにしてホイールをフォークに取り付けて作業するのでも不可能ではなさそうですが、購入することにしました。

振れ取り台はネット通販で調べると、1万円から5万円以上という幅があり、違いはがっちりとホイールを固定できるかどうか、振れをチェックするパーツが正確か、というあたりにあるようです。

初めての挑戦であること、自転車店でスポーク交換を依頼するとホイール2つで1万円はかかること、ちょうど、エアコンを買い替えたポイントが1万円分あること、などを総合した結果、一番安いミノウラの簡易振れ取り台セット(FFT-1 w/FCG-310=1万円)を注文しました。

注文したものの、「お取り寄せ」で2週間以上かかるという連絡がありました。届くまでにスポークの組み方を練習しようと、スポークの長さを測って交換用スポークを同時に注文しておきました。頭の曲がったところから定規を当てたら268mmでした。この測定方法が失敗でした。

そして、すべてのスポークを外しました。もうこれで後戻りはできません。今年は格別に暑いお盆の時期でした。

最初のトラブルは、届いたスポークの長さ(268mm)が短かったことでした。どうも、スポークの長さ測定の方法が間違っていたようです。取り出したスポーク(上)と届いた268mmのスポーク(下)とを比べてみました。

268mmのスポークは頭の曲がったところからは267mmとなっており、元のスポークは270mmとなっています。これは頭の曲がったところの「中心」からの長さのようで、必要なスポークの長さは271mmだったようです。272mmでもいいかもしれません。しかも、これは前輪のスポークです。後輪はオフセット組みになるので、左右でスポークの長さが異なることもわかりました。

購入した268mmのスポークはステンレスの72本セット(ニップル込みで2,400円)で、すべてが無駄になったかと思いましたが、後輪のフリー側に合いそうなので、18本は利用できるようで、ちょっとホッとしました。気がつかなかったけど、どうせ買わないといけない長さでした。

そこで、あらためて271mmのスポークを注文しましたが、また合わないとイヤなので、今回は「練習用」として鉄のメッキ(半額です)にしました。自信の無さが現れました。質感はステンレスとかなり違うので、うまくいったらステンレスに交換するかもしれません。

この段階で、スポークの組み方のお勉強です。ラジアル(まっすぐ)組み-タンジェント(クロス)組み、JIS組み-イタリアン、6本取り-8本取り、などです。Wildwestは古いMTBで、前後とも36H(スポーク36本組みのホイール)でJIS組み(タンジェント)の8本取りになっていました。それを踏襲します。

271mmのスポークが届いたので、組み始めてみると、面倒ではありますが、なかなか面白い作業です。こういうスポークの組み方を考えたのは素晴らしいアイディアだとわかります。写真は後輪のスポーク4本を組んだところです。まさに、鉄の編み物をしています。

初めての組み上げは40分ほどかかりました。

前輪も組んで、軸を手で持って回転させると、どちらのホイールも前後左右によく揺れています。少し間違っていたこともあって、これ以上に締めていくことはせず、もう一度すべて外して、組み上げ練習をしていました。

それから1週間後に振れ取り台が届きました。アルミ材の簡単な構成で、そのままではふらつくので、厚い集成材の余りを下に敷いてがっちり固定しました。赤い馬蹄形が「振れ取りゲージ」です。

ホイールを置いた写真です。

この写真の手前にある、くの字型の板は「センターゲージ」と呼ばれる測定具で、ホイールがハブの中心に位置しているかを調べます。このセンターゲージがこの振れ取り台ではとても重要だと気づきました。その一番の理由は、リムとの接触で「振れ」をチェックする「振れ取りゲージ」が左右の中心からずれていたことです。

振れ取りゲージがホイールのリム部分を両側から挟んでホイールを回転させると、ホイールの張り出した部分が触れて、そこがふくらんでいることを示します。振れ取りゲージの開く幅は下のネジで調整できます。このとき、振れ取りゲージがぴったりと左右の中心にあれば、左右のリムとの距離がわかります。でも、振れ取りゲージがずれていると、ホイールのほうがずれているように見えてしまいます。

最初は振れ取りゲージがずれていることに気がつかず、スポークの張り方がまずくて、ホイールが一方にずれていると思いました。でも、ホイールを台から外して左右を入れ替えても同じズレが出ることがわかりました。

振れ取りゲージの位置は下の2つのネジで固定されていて、これを緩めると移動させることができますが、中央にピタリと固定するのは無理でした。購入時の初期位置は5mmくらいずれていましたが、何とか1~2mmくらいにはなりました。

取扱説明書には、振れ取りゲージの一方だけを使うように書かれています。もっと高価な振れ取り台を使っている様子をYouTubeで観ると、振れ取りゲージの中央にホイールが位置しているので、このあたりが値段相応というのかもしれません。でも、付属のセンターゲージを使ってホイールの中心位置が正しいことがわかれば、振れ取りゲージの片方だけの接触で振れ取りが可能になるわけです。

センターゲージで中心位置を確認しているところです。中心とリムの当たり具合がホイールの両側で同じになればOKです。

こういう仕組みがわかってくると、振れ取りそのものはそれほど難しいものではありませんでした。振れ取りゲージに当たる場所で左右逆側のスポークを締めると逆側に引っ込むという手順を続けるだけです。縦振れの修正はホイールの正円性を高めるもので、上の写真の振れ取りゲージの奥にある板にホイールが当たるかどうかで調整します。取扱説明書には振れが2mm以下であれば走行に問題はないでしょうと書かれていました。

①縦振れを取る、②横振れを取る、③ホイールを床に押しつけてねじれを取る、④センターゲージで左右のバランスをチェックする、⑤テンションを測定する、というような手順を2~3回繰り返すと、振れはかなり小さくなりました。

次の動画はほぼ振れ取りができてきた状態です。振れは縦横とも1mm以下になっています。手持ちのカメラが揺れているので、わかりにくいかもしれません。音は出ません。

振れ取り作業の所要時間はだいたい30分くらいでしょうか。これでいいかなと思ったら、チューブ・タイヤを取り付けて、もう一回リムの横振れをチェックします。タイヤを取り付けると縦振れはわかりませんが、ゴム製品なので、ある程度の上下動は出てくるようです。

2本とも振れ取りを終えて車体に取り付け、20分ほど近所を走行した後にテンションを測定しました。

前輪です。平均では少し左のほうが高いですね。すべて271mmの鉄スポークです。

交換前よりかなりテンションが上がったからか、走ってみると硬くなっています。タイヤの空気圧との関係もあるので、しばらく様子見です。

後輪です。左は前輪と同じ271mm鉄スポーク、右はステンレスの168mmです。

これでOKなのかどうか自信はありませんが、ホイールのセンターは出ていますし、測定値のバラツキは交換前よりずっと小さくなっています。

初心者には無謀だと思った振れ取りでしたが、予想以上に簡単でした。まあ、ベテランの方が眺めるとデタラメな作業かもしれませんが、スポーク交換まで含めて延べ3カ月、自転車をすべてバラしてからの整備と組み立ては、メカ好きにとっては面白い経験で、達成感がありました。

スピードは出せないし、山道も行けないけれど、整備用の工具は揃ったので、お気楽ポタリングは気分上々で楽しめそうです。


おまけ:ママチャリのスポークテンション
(9月15日)
自転車整備の始まりとなったママチャリ(ブリヂストンのカルモ)のスポークテンションも調べてみました。

前後輪ともに20インチ、28H(右14本、左14本のスポーク)のホイールで、JIS組みの6本取りになっています。スポークは鉄のメッキで2mm径、ニップルはアルミのようです。

前輪のスポークテンション測定結果です。

平均が24くらいで、かなり高いですね。振れ取りをするほど揺れてはいませんでした。

ニップルが割れた後輪です。

びっくりするほど高いテンションです。こんな数字はテンション測定器の目盛りにありません。手で締めるのは無理ですね。ニップルが割れたというのもうなづけます。ここまで高いと、手で触ってもビクともしません。

後輪はタイヤ・チューブを外して振れ取り台でチェックしました。ローラーブレーキを取り付けた状態でセンターを出します。

ニップルを交換したあたりに少し振れがありました。とりあえず、ここの振れ取りをしようとしたら、ニップルが固着して、なかなか大変でしたが、何とか、1mmくらいにおさまりました。

その後、全体にテンションを30未満くらいに落としたかったのですが、すべてのニップルが固着していて、ニップル回しで角をなめてしまいそうです。ここで下手なことをしてスポーク交換などになると買い物に支障が出るので、それ以上の作業はやめました。