上方歌舞伎会 菅原伝授手習鑑

8月24・25日に文楽劇場で「第二十七回 上方歌舞伎会」が開催されるというので、25日午前の部を予約していました。上方歌舞伎会というのは、歌舞伎俳優既成者研修発表会で、若手が演じます。片岡仁左衛門・秀太郎・我當の指導によるものです。

今年4月に文楽で菅原伝授手習鑑を観たところなので、同じ演目が歌舞伎ではどういうふうに演じられるのかを楽しみにしていました。加えて、「棒しばり」が演じられます。

文楽劇場に花道が設けられています。文楽でも花道を使う演目があるようですが、まだ観たことがありません。上手の床はありません。

上手の小幕(人形や俳優の出入口)がいつもの竹本座と豊竹座の紋ではなく、勉強会ということで、国立劇場の紋章(楽天女)になっていました。

菅原伝授手習鑑は「賀茂堤の場」と「佐太村賀の祝の場」が演じられました。賀茂堤は文楽で省略されていた前段部分です。斎世親王と丞相の養女・苅屋姫の逢瀬を桜丸が取り持った場面で、それが発覚して、桜丸が責任を取って佐太村で切腹するに至ります。

人形と人の演技の違いは大きいものの、同じ演目での違和感は特にありません。前のほうの席だったので、顔の白塗りが生々しく見えるところはありますが、すぐに慣れました。文楽を踏襲した筋書き・セリフのようですが、ところどころで笑いを取るセリフと動きが入っているようです。役者だから可能になる演技ですね。

二幕目の「佐太村賀の祝の場」は、文楽と歌舞伎の様式の違いがよくわかって、楽しく観ていました。特に、松王丸と梅王丸が米俵をやり合って喧嘩する場面は歌舞伎らしい動きに思いました。ただ、早く着いた八重のセリフが舞台の奥だったからか、よく聞き取れなくて、文楽と同様に、三十石舟に飛び乗ったと言っていたのか不明でした。文楽では舞台上にスーパーが出るし、床本があるので、わかりやすいのですが。

若い俳優が年寄りを演じるわけですから、メークと髪型や動作で表現するのはたいへんな苦労があると思います。佐太村での場面でよくわかりましたが、人形では不可能な「表情」が大きな情報になっています。花道を白太夫が八重を連れて神社に向かう場面では、前を向いたときは深刻に、八重に向いたときは作り笑顔で、という、桜丸を思う白太夫の気持ちがよく表れていました。まあ、ちょっと表れすぎた感はありましたけど。

菅原伝授手習鑑では上手舞台上に小さな床が置かれ、一部、義太夫節が入りますが、太夫・三味線ともに、文楽の技芸員ではなく、歌舞伎(竹本協会)に所属しています。普段の文楽とは違って、少し柔らかい感じを受けましたが、初心者の聴き方なので、よくわかりません。

若手の発表会とはいえ、さすがに歌舞伎だと思ったのは、観客に花柳界っぽい人がちらほらと見えたことですね。いつもの文楽とは少し客層が違うようです。また、これも歌舞伎らしいのは、「なりこまや!」などの掛け声が入ることです。本来は「大向う」からのものでしょうが、前のほうの客席からも掛かっていました。文楽劇場は狭いので、仕方がないのかもしれません。

もう一つ、「棒しばり」が演じられました。狂言の「棒縛」は何度か観ていますが、歌舞伎にアレンジされると、滑稽味が拡大され、「歌舞」が豪華になるのがよくわかります。能舞台を模した松の幕が奥にあり、「松羽目物」と呼ばれているそうですね。明治以降に始まったようです。舞台には、三味線方、唄方、小鼓、笛、太鼓などがずらっと並び、棒に縛られた次郎冠者の舞踏はマイケル・ジャクソンや酔拳が真似をしたのではないかと思わせる楽しさでした。

歌舞伎は大昔、高校の同級生が詳しく、連れられて「大向う」で遠くから眺めただけでしたが、遠くでも近くでも、華やかさはすばらしいものがあります。好みはどちらかと言えば、能・狂言や文楽ですが、たまには豪華な歌舞伎も観ようかな、という気持ちになりました。