夏祭浪花鑑

7月24日、第三部のサマーレイトショー「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」を観てきました。

舞台となっているのは高津宮の夏祭ですが、今日はちょうど天神祭の宵宮で、時節はぴったりです。

天神橋筋六丁目で乗り換えた地下鉄堺筋線で、ドアがヒョウ柄になっているのに気がつきました。「大阪名物」のデザインかと思いましたが、天王寺動物園のPR列車だそうですね。

いつものプログラムとミニ床本です。

夏祭浪花鑑は、大坂歌舞伎の「宿無団七」を元に、並木千柳、三好松洛、竹田小出雲の合作で、1745年に竹本座での初演です。当時実際に起こった殺人事件を取り上げて作られたとされていて、大阪(語りでは大坂:おおざか)の暑い夏を描いています。

元来は全九段という長編のようですが、今回のように、「住吉鳥居前の段」、「釣船三婦内(つりふねさぶうち)の段」、「長町裏の段」の三段だけが上演されるのが普通だそうです。解説を読むと、かなり複雑な人間関係なので、1/3だけで理解できるかな、と思っていましたが、まあ、語りだけでそれなりにわかりました。でも、文脈がわからないまま、山場だけを観るのは、面白いものの、気分はすっきりしません。結局、観劇後に文脈を調べることになります。

開幕で、太夫、三味線、人形遣いは夏らしい薄青の着物姿です。
住吉鳥居前の段は、よく知っている住吉大社が舞台で、今は阪堺電車の住吉鳥居前停留所のある道路あたりです。舞台上手に反橋(そりばし)が描かれ、中央に髪結床があります。髪結床の両側に立て札が1本ずつ立っています。夏の御田植と大祓の案内です。その横には「曾根崎心中」と書かれた札(浄瑠璃公演のCM?)が置かれています。こういう細かな設定が楽しいですね。

この段で、多くの情報が与えられ、記憶するのが大変でした。
妻のお梶と子供、親しい老侠客・釣船三婦(つりふねさぶ)がやって来て、主人公・団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)が牢から釈放される日であることがわかります。団七が恩を受けた武家がいて、その放蕩息子・磯之丞が駕籠に乗ってきて降ろされ、駕籠かきにいたぶられますが、三婦に救われ、お梶らが休憩している昆布屋へ会いに行きます。

団七が縛られたまま連れてこられて、鳥居前で縄を解かれます。三婦から着物をもらって髪結床に入ると、磯之丞が入れ揚げている遊女・琴浦がやって来ます。横恋慕している大鳥佐賀右衛門に連れ去られそうになったところに、団七が有名な柿色の格子「団七縞」の姿で現れて、琴浦を助けます。

その後、佐賀右衛門の指図で、三婦にやっつけられた駕籠かきの助っ人として現れた一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)と団七は、どちらも例の立て札を引き抜いて実力伯仲の取っ組み合いをしますが、お梶が曾根崎心中の札を取って、仲裁に入ります。お梶の説明で事情が分かった徳兵衛は団七と義兄弟になります。

釣船三婦内の段で面白かったのは、三婦の女房が夏祭の食事を準備しているのですが、それが焼き魚だということでした。鱧(はも)かと思っていましたが、そうではなく、あじの焼きものが大阪の夏祭料理のメインだと知りました。

最後の長町裏の段が有名ですね。
長町というのは、堺筋(紀州街道)の日本橋から南側の旧地名で、日本橋も高津宮も現在の文楽劇場のすぐ近くです。団七の義父(お梶の父)義平次が大鳥佐賀右衛門のために、団七に頼まれたと嘘をついて、三婦の家から琴浦を駕籠で連れ出し、それを追いかけた団七が最後に長町裏で義平次を殺し、逃げていくというストーリーです。

以前から、「団七走る」というキャッチコピー?は聞いていましたが、なぜ走るのかは知りませんでした。この段の最後の語りが「八丁目(さして)」で、団七が走って逃げて下手に消えますが、ここが「団七走る」のようですね。しかし、八丁目がよくわかりませんでした。なぜか、地獄の八丁目か(そんなところがあるのか?)と思ってしまいましたが、省略された次の段「田島町団七内の段」を調べると、上本町あたり(の昔の地名)に団七の家があったんですね。

観終わった感想は、団七の動きは人形とは思えない迫力で、桐竹勘十郎の実力を堪能したという気分です。歌舞伎役者の所作との相互作用が大きいと感じました。長町裏の段は特に、太夫が二人で掛け合い、囃子方による祭の鉦・太鼓の洗練された背景音がとても効果的で、すばらしい演出でした。

このストーリーは、庶民の生活情景の中での悲劇ではなく、いわゆる渡世人・侠客の事件物語です。最初の二段が省略されているために、団七が牢から釈放される日から始まります。やくざ映画の雰囲気で、三婦は「江戸を知らぬ者と牢へ入らぬ者とは男の中の男ぢゃないと言ふ」と言っています。

団七が殺した義父の義平次は強欲で、敵味方関係なく単純な儲け話に乗ってしまうようですが、長町裏の段で、団七が義平次に琴浦を戻してほしいと懇願する場面では、浮浪児だった団七の若い頃から、義平次がいかに団七を世話したかを伝えながらなじります。

このなじった内容はすべて事実のようで、団七は「サアそれは皆、お前様のお世話」、「段々の仰せ、一つとして返す詞もござりませぬ」と認めています。でも、どうしても恩義ある人の放蕩息子の女を取り戻したいため、「ここに三十両ござりますれば」と嘘をついて、琴浦を三婦の家に帰させます。

この嘘がばれて、義平次は団七を打擲し、団七は額を割られたことに逆上し、それから後は「はずみ」で義平次を斬ってしまいますが、最後には「ム、コリヤモウ是非に及ばぬ。毒食はゞ皿」と言いつつ、とどめを刺します。

粋な着物で喧嘩して、仲間内の男だて・女だてを大事にし、男が立つかどうかで是非を判断するので、一見、「カッコええなあ」と言いそうです。釣船三婦内の段で、徳兵衛の女房・辰が磯之丞を預かるという場面で、三婦が辰に色気を感じるので問題が起こるのではと言うと、辰は顔に火鉢の焼き金を当てて、火傷で色気を無くし、それで三婦は安心して磯之丞を預けるのが象徴的です。

でも、挙げ句の果て、団七は義父を殺めてしまい、その後、(省略された段では)団七は仲間たちにかばわれるというストーリーになっています。

三婦、徳兵衛、それぞれの女房たちの強さに対して、団七だけは強がりと裏腹な弱さを見せているように感じます。あまりすんなりとわからない渡世人の世界でしたが、舞台は圧倒される迫力でした。