2016年1月17日は今年最初の京都観世会例会でした。
京都観世会例会には大阪に戻った翌年(2013年)から普通会員で行き始めましたが、去年からハーフ会員という半分の回数券にしてみました。実際に行く回数からすれば、これが適当だとわかりました。去年から30分遅い11時開演になりましたが、現地で座席を指定しますので、10時過ぎには着くようにしています。
今日の演目は、「翁」観世清和、能「鶴亀」林喜右衛門、狂言「鬼瓦」井上松次郎、能「葛城 -大和舞-」』浦田保浩、能「乱」田茂井廣道、となっています。
岡崎までは1時間ちょっとかかるので、久しぶりに朝7時過ぎの淀川散歩でした。いい天気です。堤防の内側(西側)はまだ太陽が当たっていません。
今日の例会鑑賞の一式です。
この他の必携品はiPadミニです。謡本の「観世流謡曲百番集・続百番集」をスキャンして入れています。
昔は実物を持って行っていましたが、演目が百番集と続百番集にわたっていると2冊になり、重いものでした。と書きながら、重さを調べてみたら、iPadミニはケース込みで410グラム、百番集は一冊370グラムなので、2冊なら重いけど、1冊なら軽いですね。タブレットの利点は、謡本がたくさん入るだけでなく、観劇中に見所(けんじょ:客席)が暗くなるので、膝に置いたままでも発光画面が見やすいのです。もちろん、画面をかなり暗くしています。縦置きにすれば、ページは半分になりますが、文字が大きくなるので、近視老眼でもOKです。
実物のページ写真です。皮表紙がボロボロになってしまっています。
いつも中正面(舞台に向かって左手前の目付け柱のある斜め方向)の通路側に座るようにしています。柱が邪魔になることがありますが、いろんな意味でリーズナブルです。半世紀前の学生時代は学割(当時は500円、今は3,000円)で、2階の自由席に座っていました。
当時(昭和42年1月例会:1967年1月15日)の観覧整理券半券が百番集に挟まっていました。
その時のプログラムもありました。
このころは狂言が始まる時間になると、大多数の人が退席し、残りの人は見所でお弁当を食べていました。今は飲食禁止になっていますし、退席する人も1/3くらいになっています。私は狂言も好きなので、いつも観ますが、昼食を摂る時間がなくて困ります。飲食禁止なら、もう少し昼の休憩時間を長くしてほしいですね。
上のプログラムも1月例会なので、翁から始まり、演者は観世元正です。今日演じる清和の父上ですね。東北のシテが片山博太郎(その後、幽雪)で、昨年末に亡くなられました。
今日の演目では「翁」を演じる観世清和は端正ですね。年の初めが爽やかになります。翁を観ていていつも思うのですが、能の翁の舞は短いのに、続く狂言方の三番叟(さんばそう)がとても長いのはどうしてなんでしょうね。猿楽として、いずれが古いルーツを持っているのか知りませんが、折口信夫の「翁の発生」を読んでいると、翁は「まれびと」が演じる神事であり、三番叟の「黒式尉(こくしきじょう)が猿楽の原型を伝えている」とまとめています。能のシテ方と狂言方に分かれた経緯も含めて、翁は猿楽の歴史そのもののようですね。いずれゆっくり調べてみたいと思っています。
三番叟はもちろん楽しい舞ではあるのですが、失礼ながら、ちょっと狂言師の肥満が気になりました。狂言の演目には太った方のほうがぴったりという場合もあるのですが、黒式尉の面を付けた回りに顔の肉が大きくはみ出してしまうのは、個人的には興醒めの感があります。
最近の肥満傾向は能楽師のほうに、よりあるような気がします。能楽師のトップで、すばらしい舞と声をお持ちなのに、ダイエットをなさったほうがいいと思える方々がいます。数年前、久しぶりに大阪で「二人静(ふたりしずか)」を観ましたが、シテの著名な方が巨大な肥満体で、豪華な装束の静御前(シテ)と菜摘女(ツレ)が並ぶと、遠近感がおかしくなりました。「紅葉狩」で、シテとツレ6人の女が居並ぶ豪華な舞台でも、中にそのような体型の役者が混じっていたことがあります。「邯鄲(かんたん)」で寝台に飛んで寝るような身軽さまで期待しませんが、それなりの体型は維持していただきたいと感じます。
「鶴亀」はさておいて、「葛城(かづらき)」は、雪をかぶった庵の作り物が運び込まれた途端に昔の記憶がよみがえりました。高校1年の耐寒登山で、「葛城」の舞台である大和葛城山(やまとかつらぎさん)の隣にある金剛山(こんごうさん)に登ったときのことです。初めての冬山?ということで、近所の靴屋で学校推薦のキャラバン・シューズを買い求めました。今はロープウェイがあるようですが、当時は南海高野線の千早口から歩くしかありません。登山道は途中から雪景色になり、ペースはわからないものの、体力はあったので、がむしゃらに登っていたら、汗だくになってしまいました。着替えを準備することも知らず、山頂でガタガタ震えはじめて、下山するまで大変でした。半世紀が過ぎた今、葛城山の女神が山伏たちに雪を避けるように庵に案内するのがとてもうらやましく思いました。
最後の「乱(みだれ=猩々乱:しょうじょうみだれ)」は正月らしい、観ていて楽しい祝言の曲ですが、猩々とはよくわからない動物ですね。中国の文献では空想上の動物ということで紹介されているようですが、緋色の髪と酒好きが定番で、妖怪というより、オランウータンとみなす人が多いようです。確かに、赤褐色の毛が長く伸びている姿は猩々らしい雰囲気です。
それでは、はたしてオランウータンが酒好きなのかどうかです。ちょっと調べてみると、同じヒト科ですが、ヒト・チンパンジー・ゴリラとはずっと昔に分かれたオランウータンはメタノール分解酵素を持たないという記事がありました。となると、オランウータンはアルコールを少量でも飲むとすぐに酔ってしまい、酔いがなかなか治まらないように推測できます。いわゆる悪酔い(悪寒や吐き気など)をするかどうかは、アセトアルデヒドを分解できる能力があるかどうかでしょうが、それはわかりません。
youtubeなどでは、動物がアルコール(発酵物)で酔っ払う映像がありますが、猩々もそのようになるのでしょうか。気分が悪くならないなら、酩酊感が気持ちよく、少量の酒で酔いが長続きするのでしょう。これは酒好きと言っていいのかもしれませんね。でも、能の「猩々」では、猩々は海中に棲み、大酒飲みで、いくら飲んでも顔色は変わらない、ということなっています。むずかしい世界です。
正月早々、なかなか味わい深い能会でした。





