真鍮の狐面 09 完成

12月16日、狐面が完成(と)しました!

左から眺めると

右から眺めると

仕上げにけっこう時間がかかりました。
最後の仕上げ作業を振り返ってみます。

11月25日
整形しただけではのっぺらぼうに見えます。鼻と口を際立たせるために、硫黄で着色します。
紙カップに硫黄(左)と希硫酸(右)を入れています。

ドライヤーで暖めながら、綿棒で希硫酸と硫黄を交互に塗っていきます。

着色できましたが、慣れないので、薄すぎです。

12月2日
再度、塗り直しました。
くっきりです。ちょっと濃すぎるくらいです。

こんな感じです。

12月9日
目がどうもくっきりしませんので、銀箔を貼ってみようかと、東急ハンズで買ってきました。

接着剤を目に塗って、銀箔を貼りました。

しかし、目が平面ではなく、表面処理がツルツルではなく、さらに教室の空調で空気の流れがあり、きれいに貼ることができません。どうしてもシワができて、ザラザラになってしまいます。職人が金箔・銀箔を貼っている作業のようにはできません。

12月16日
目の周囲に硫黄でアイラインを入れることにしました。
銀箔をはがして、マスキングテープで養生して、マジックでアイラインを描き、切り抜きます。

しかし、テープが強く、また、ナイフの切れ味が悪く、うまくカットできません。
そこで、マスキング用の薄いビニールに替えました。

写真では見えづらいですが、うすい透明の膜になっています。
これでうまく切り抜くことができました。

鼻と口と同様に、硫黄で着色します。

両方にアイラインが入りました。

さて、これから目に銀箔を貼るかどうかが悩ましいところです。
アイラインの内側をハンドグラインダーで磨いていくと、目の質感が変わって、悪くありません。

硫黄で着色した部分は、こすると取れますので、全体をニスで覆いました。
これで触っても(かぶっても)問題がなくなりました。

ただ、全体にツヤが出てしまって、目と他との質感の違いが小さくなりました。
でもまあ、これで完成ということにしました。

パスカルと記念写真です。パスカルは横目になって、気にしています。

この記事の最初の写真を再掲します。

5月から始めて、延べ8カ月かかりました。銅のアヒルより長くかかっています。
真鍮の鍛金のむずかしさがよくわかりましたが、途中からは楽しくなりました。
今日がちょうど今期の最終日です。次回は1月20日から始まりますが、さて、次は何を作るか、です。

(完)

真鍮の狐面 08

11月11日
顔の彫り込みが終わったので、詰めていた松ヤニを焼き落とします。
アヒルの時と同じ作業です。

鍋に落ちた松ヤニの塊です。よく見ると、鼻先の彫り込みがそのまま残って、なかなか無慚です。

酸洗いできれいにして、耳のふちを少し叩いて折り曲げる準備です。

こんな当て金を使って、木槌で叩きます。

叩いている途中です。

これでくらいで、今後は熱を加える作業はありません。

11月18日
周囲の切り口の凹凸を金斬りバサミで整えて、ヤスリ掛けをしました。
周囲を軽く叩いておくと丈夫になるようです。

歪んでいる部分を少し手直し、整形はこれで完了としました。

(続く)

真鍮の狐面 07

10月7日の成果です。
前日まで、眼を紙で作って、いろいろと試していました。
最終的に次のものに決めました。とりあえずは、眼の形と位置で、瞳はその後です。
松ヤニを入れているので、とても重く、耳を持ってしまうと歪みます。

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教室で、紙の眼に合わせてマジックで線を入れ、長方形のタガネ(鏨)を小さな金槌で叩いて溝を入れていきます。

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溝が一回りできたので、平たいタガネを使って、その線の内側に段差をつけます。眼球の表現です。

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使ったタガネは次の3種類です。

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ほぼ眼の形ができました。

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タガネによる造形は初めてで、緊張しながらも、なかなか楽しい作業だとわかりました。

 

10月14日の成果です。

口を作ってみました。

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タガネできれいに処理するのはむずかしいですね。

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次は鼻をどうしようかと思案中で、パスカルの鼻を参考にしてみましたが・・・。

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こうやって見ると、パスカルの鼻は大きいですね。

10月21日はクラフトパークのフェスティバル(10月23日)開催準備のために休講でした。昨年はアヒルを展示してもらいました。

10月28日の成果です。
鼻の周りを形作ってみました。

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パスカルより、ずっと小さめです。

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もう少し、造形を考えないといけないでしょうね。

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この写真の右側にあるボードには、瞳を入れる位置や大きさのサンプルを描いています。
来週あたり、瞳に穴を開けることになります。

 

11月4日の成果です。
瞳の形、大きさ、位置決めで少し時間を取りました。

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紙を丸く切って、黒く塗ったものを糊で貼っています。
本物のキツネのように縦長も試みましたが、雰囲気がむずかしいようで、丸くしました。まあ、暗いところではキツネの瞳孔も丸くなっていると思います。

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瞳の外周(虹彩?)も考えてみましたが、表現する方法がわかりません。
結局、瞳のサイズは上の写真の白い外側と黒い内側の中間としました。
切りタガネという工具を使って、ちょっとずつ切っていきます。

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両方、切り取りました。中の松ヤニが見えています。

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切り取った瞳です。左は黒い紙が張り付いたままです。

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悪くない位置・サイズと感じています。

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鼻の穴を窪ませました。

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さて、これでそろそろ終盤かと思っていたのですが、指導員のKさんから、好みの問題ですが、タガネで毛のスジを入れることもできますよ、という話題がありました。
余っていた真鍮板で試してみた写真です。

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こういうスジを入れるべきか、現状の槌目のままにするか、ちょっと悩んでいます。

(続く)

真鍮の狐面 06

9月2日の成果です。

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耳と耳の間を少し切りましたが、まだ正面がどうも、という感じです。だからと言って、具体的なアイディアがあるわけでもありません。

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横顔あたりは大体こんなものと感じています。

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9月9日の成果です。
耳の間をさらに広げました。なんか、フェネックみたいな耳ですが、これはこれくらいでいいと思っています。

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裏です。

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あごの下あたりをもう少し絞る必要がありますが、この段階で、眼、鼻、口を細工してみることにしました。

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そこで、いったん焼きなまして、松ヤニを入れました。

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この日は熱いため、1週間、置いてもらいます。

9月16日です。今日は鍛金作業はしていませんが、酸洗いをしたら、真鍮なので、狐らしい色になりました。

細工を始めるために、先ずは眼をどのようにするかで悩んでいます。
紙のお面と比べると、まったく違ったものになっていますが、眼を参考にしています。

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裏はこんなものです。

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どういう眼にしようかと思いつつ、紙で眼のサンプルを作りました。
この眼だと、間延びした顔になってしまいます。

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口と鼻もイメージが定まっていないので、むずかしそうです。テキトーにマジックで書き込んでみたため、それが邪魔になっています。消さなければいけません。

今期は今日で終わり、来期は10月7日からなので、その間、いろんな眼・口・鼻を試してみます。

(07に続く)

真鍮の狐面 05

8月の成果をまとめます。

前回の記事で「終盤戦に突入」などと筆がすべりました。「後半戦に突入」と改めます。

8月5日の成果です。
前回から比べて大きな進展とは言えませんが、余分な周りを切ったので、耳も左右が分かれました。
テキトーに目鼻耳をマジックで描いてみましたが、位置も悪いので、参考にはなりません。

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真横から見ると、顔のシルエットはかなり出来てきている気分です。

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反対側です。

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無理矢理にパスカルを横に来させました。いやがっています。

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8月12日はお盆休みでした。

8月19日の成果です。
今回から耳の内側を逆(裏)から叩いて、凹みを出し始めました。

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横から眺めると、耳の外側に余分が多すぎるようです。

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ただ、耳の外側をどのように始末していくかを決めていませんので、しばらく考えていました。

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裏には、こちらから耳を叩く目安の線を入れています。

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8月26日の成果です。
結局、耳の外側を切りました。
顔の輪郭としては、上部が大きいので、顔をもっとしぼらないといけないでしょうね。

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耳のサイズはだいたいこんなものでしょうか。

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もう少し耳を前に傾けたいのですが、その一方で耳の内側を深くしたいこともあって、なかなかうまく両立しません。

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これからが終盤戦と言うには、最終形のイメージが明確ではありません。
もうちょっと顔と耳をしぼって、外観がOKという気分になってから、仕上げの方法を決めることにします。

いつもそうなのですが、食器などと違って、事前に最終イメージが見えていませんので、いつ終わるかは見当がつきません。当分は続くでしょう。

(続く)

真鍮の狐面 04

7月に入って、新学期です。

7月8日、少したたいてから、不要とわかってきた外側を切り取ります。
写真の左側に、持ち手の一方(下側)を万力ではさんだ金切りバサミが写っています。ハサミの持ち手の一方を上から押して、少しずつ切っていきます。片手でハサミを持って切ろうとしても、とても切れるものではありません。

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これくらいになりました。

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パスカルの鼻と比較しました。まだまだパスカルのほうがずっと細長いです。パスカルの面を作るわけではありませんけど。

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7月15日の成果です。
あんまり大きな違いがありません。いつもの中だるみです。

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7月22日は札幌訪問で休み、7月29日の作業です。
少したたいてから、また、顔の不要部分を切り取りました。かなり目標に近づいてきたので、モデルを眺めながらたたいています。
指導員のKさんに、額から鼻先までの逆Rをつくるためには、額部分の凸を別に出す必要があることを教えてもらいました。盛り上げる凸部分の数だけ、しぼりを加えていくそうです。覚えておかなければならない基本の技で、そういう目で曲面を考える必要がありますね。額の中央をしぼっている途中です。

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額を凸にしぼるために、丸い当て金を使います。

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今日の成果です。Kさんに手伝ってもらった結果、逆Rが出てきました。

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パスカルが少しだけ興味を持ちました。

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これから、耳をどのように作っていくかを考えなければなりません。
終盤戦に突入、と言えそうです。

(続く)

真鍮の狐面 03

大きな真鍮板を叩きはじめて、大阪の暑さがしんどくて、夏を迎える時期にこういう作品を作る計画は無謀と思う気になっていました。銅のアヒルは10月開始だったので、秋まで置いておこうかとも考えましたが、形ができてくると少しずつ叩きやすくなったので、続けることにしました。
今回は4回分をまとめます。

5月27日の成果です。先週よりは盛り上がったかな?という程度です。

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6月3日の成果です。だいたい、狐面の高さになってきました。

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6月10日の成果です。この日から、口先をしぼっていく作業となりました。

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6月17日の成果です。

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イメージ型紙を切り取って、内側に合わせながらしぼっていくようになりました。
高さはこんなものですね。

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実はまだ、耳をどのように作っていくかを決めていません。

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紙の狐面と並べると、写真ではわかりにくですが、かなり鼻先が高くなっています。

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パスカルはちょっと見に来ただけで、興味はなさそうです。

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今期は今日で終了で、次は7月に入ってからになります。

(続く)

真鍮の狐面 02

5月20日の成果です。

暑くて、重くて、バランスが取れず、力がうまく入らず、反発が大きく、とても疲れました。
でも、盛り上がってきました。

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横から眺める(左が下になります)と、歪んでいますが、まあ、まだまだこれからです。

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これくらいの凸ができてくると、少し叩きやすくなってきました。
これからは中央部(鼻先)を盛り上げていくことになります。

(続く)

真鍮の狐面 01

昨年に銅のアヒルを作った後、Gゲージの機関車の動輪を鋳金(ちゅうきん)で作りたくて、鋳型(いがた)作りを模索していました。でも、なかなかうまくいかず、その間、教室では錫や銅の小物ばかりを作っていました。鋳型作りの方向が少し見えてきて、それは自宅で進めることにしました。一方、教室では、小物ばかりだとすぐに完成?ですが、やはり、それなりの時間がかかる作品を作りたくなりました。

そこで今回は鍛金(たんきん)で狐面を作ってみることにしました。素材はまだ鍛金で使ったことのない真鍮(しんちゅう)です。

昨年、「玉藻前曦袂」を観た際、お土産として紙製の狐面を買ったことを書きました。これを基本モデルにして、伏見稲荷の狐の雰囲気を少し取り入れよう、という「言うは易しい希望」です。

5月13日に開始しました。
真鍮板0.8mm厚を42センチ×36センチに切ってもらいました。最初は1mm厚の予定だったのですが、面にするには厚い気がしたこと、そして、みなさん、真鍮は硬いよ、という話で、軟弱な気持ちもありました。
狐面を置いてみます。

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この狐面よりも奥行きを出したいので、少し大きめです。
鼻の先から絞っていきますので、そこに印を付けて、不要となる四隅にマジックで線を入れました。

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四隅を切り落としてから、焼きなまして、先ずは、次の臼のような台で全体に少し凸を作ります。

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臼で叩いてわかりましたが、銅板と違って反発しますね。
こんな感じになったので、これから叩いていく同心円の線を描きました。

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当て金は大きめです。次の写真は30分ほど叩いた(一巡目)ところです。

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延べで1時間以上は叩いた、今日の成果です。

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このところ、小物ばかりを叩いていたので、今日は相当に疲れました。特に、叩く音が大きく、濡れタオルを上に載せていたので、板を持つ左手も疲れました。
真鍮は銅よりも反発するようだし、それでいて、紙のようにシワができるような感じです。慣れていくしかありません。

さあ、始めてしまいましたが、どれくらいでどのように完成するのかしないのか、まったく予想がつきません。気長に叩き続けるのみです。

(続く)

玉藻前曦袂

11月18日、文楽劇場で玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)を観てきました。文楽を観に行ったのは正月の冥途の飛脚以来です。
人形浄瑠璃は学生時代に朝日座で数回観ただけでしたが、世話物(近松の心中物)が好きで、大阪に戻ってから、曽根崎心中、心中天網島、冥途の飛脚と続けて観ることができて喜んでいます。時代物はあまり食指が動かず、ほとんど観ていませんでしたが、今回の玉藻前曦袂はぜひとも観たかった演目でした。曦袂(旭袂)というのは詳しくは知りませんが、竹田出雲作の大塔宮曦鎧(おおとうのみやあさひのよろい)をもじっているのでしょうか。

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玉藻前伝説は妖怪好きにとって定番の物語です。ただ、狐好きにとっては、齢を重ねて、双尾や九尾になった狐は悪の世界を象徴していて、残念な気持ちでもあります。ごん狐くらいのイタズラであればともかく、百年とか千年を生きた狐は尾裂(おさき)になり、美女に変身して男(帝)をたぶらかすわけです。

でも、さすがに葛の葉(くずのは)あるいは信太妻(しのだづま)伝説の狐は安倍晴明を産んだとされるだけあって、若い雌狐だった説が多いようですね。異類婚姻譚にもさまざまあるようです。

学生時代から安倍晴明がらみの陰陽道は好みの話題でした。下の写真は高校時代によく訪れた信太森葛葉稲荷(しのだのもりくずのはいなり)神社(大阪府和泉市)です。10年ほど前に、札幌からの出張の帰りに、関空に向かう途中で久しぶりに訪ねてみました。今は住宅地の中になっていますが、私の記憶にある神社は田圃に囲まれていて、横に小さな集落があっただけでした。

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JR北信太駅の近くです。この近所では和泉五社の一つである式内社・聖(ひじり)神社(信太大明神)が葛の葉伝説の本地?として知られていると思います。まあ、昔はこのあたり全体が信太の森の地域だったのでしょう。

JR北信太駅も昔は葛葉稲荷停留場と呼ばれていたそうです。また、住吉大社のそばで生まれ育った私の母は、南海電鉄の高石町(現・高石)駅が葛葉駅だったと聞いたことがあると言っていました。

神木の大きな楠の前にいる狐です。葛の葉と名乗った狐はこの楠から生まれたという説もあります。昔は楠に葛が巻き付いていたのでしょうか。葛の葉が我が子(安倍晴明)に書き残したとされる有名な歌「こひしくばたずねきてみよ和泉なる・・・」については、折口信夫が「信太妻の話」で「なんだかテニヲハのあはぬ、よく世間にある狐の筆跡とひとつで、如何にも狐らしい歌である」と書いていますね。

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本題に戻ります。
京都大学電子図書館がネットで公開している玉藻前の絵巻のディジタル画像は閲覧したことがあります(あらすじ・解説はこちら)が、文楽劇場での公演中、展示室に実物がお披露目されていました。ネット上のディジタル画像よりも鮮やかで、とてもきれいな状態に見えました。江戸期の写本のようです。

この絵巻では、狐は九尾ではなく、双尾です。中国では昔から九尾だったようですが、日本で九尾になったのは江戸期以降だそうですね。中国からの伝わり方も興味深いところがあります。

玉藻前の狐では、「玉藻前草子(常在院本:室町期)」(妖怪絵巻:毎日新聞社 1978所収)の絵が一番好みで、ディスプレイのデスクトップ背景画像(兼スクリーンセーバー)コレクションの一枚です。双尾の先にあるカラー・リングがとてもオシャレです。この場面は討ち取られる寸前で、矢と槍が迫っています。

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さて、観劇後の感想は、こういう文楽もあるんだ、という、とても楽しいものでした。それは最後の化粧殺生石(けわいせっしょうせき)での七変化で、宝塚のレビュー(数度しか観たことはありませんが)のフィナーレのような華やかさがありました。音曲に合わせた桐竹勘十郎による人形遣いのメリハリの良さと言うべきでしょうか。

実は開演するまで、この演目自体の事前の知識はありませんでした。歌舞伎も知りません。開演前に買った解説書には筋書きが書かれていたし、ミニ床本も付いていて、カミさんは読んでから観ていました。

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いつもはそれなりに予習するのですが、今回は時間がなくて、浄瑠璃の筋書きを知らずに、でも玉藻前伝説は知っているという、生半可な知識のままで舞台が始まりました。これが推理小説を読んでいるような観劇経験になりました。以下はあらすじに沿った感想メモです。

いつもの抑えの利いた口上の東西声と拍子木で気分が高まります。清水寺の段が始まりました。最初から玉藻前伝説にはない、鳥羽天皇の兄・薄雲の皇子が謀反の企てを持っている話が出てきて、どういう絡みになっていくのか予想がつきません。次いで、皇子からの誘いを断っている藤原道春の娘・桂姫があらわれます。桂姫は陰陽師・安倍泰成(晴明の子孫でしょう)の弟・采女之助に恋慕していますが、采女之助はつれないようです。桂姫が玉藻になるのであれば、地位の低い若い男に恋しているというのは少し違うような気がします。

次の道春館(みちはるやかた)の段では、桂姫の妹・初花姫がいます。そこに、皇子の命を受けた鷲塚金藤次がやってきて、獅子王の剣か桂姫の首を渡せと問い詰めます。その中で、亡き道春の奥方・萩の方から、実は桂姫は捨て子であったことが明かされます。捨て子の話は玉藻前伝説にあるわけで、やはり、桂姫が玉藻になるのだと考えるしかありません。

剣はすでに皇子の手に渡っていて、二人の姫が双六遊びの勝負で討ち取られる役を決めてよいことになります。初花姫が桂姫のために負けることができた途端に、金藤次は桂姫の首を切ってしまいました。ありゃりゃ、です。頭が混乱してきました。

隠れていた采女之助に金藤次は討たれ、息を引き取る前に、首を切った桂姫が自分の娘であることを明かします。まあこれは、浄瑠璃でよくある、忠義で話をややこしくさせる手管だと思うのですが、それじゃ、道春の実子の初花姫が玉藻になるしかないではありませんか。桂姫は恋が成就せず、父親に首を切られるだけの出番となってしまいました。しかも、父親・金藤次を討ったのが恋慕する采女之助です。究極の悲劇のヒロインと言えそうです。

桂姫が首を切られた直後に、初花姫が歌合わせで詠んだ歌を帝が褒めたことから、玉藻前として入内することになりました。これは玉藻前伝説の一つですが、突然の展開でした。次は、初花姫が九尾の狐とどのように結びつくのかです。ただ、この段で妙に気になったのは、右大臣・道春の家中のみなさんが町人のような言葉遣いだったことです。世話物を観ている気持ちになりましたが、平安期の公卿の家中での会話がどのような言葉遣いだったのか知りませんので、よくわかりません。まあ、これが文楽らしさ、というものでしょう。

神泉苑の段で、九尾の狐はいずこからか宮中に入ってきて、初花姫あらため玉藻前を襲い、玉藻前になりすましました。ちょっと唐突ですが、そうならざるを得ないでしょうね。玉藻前は薄雲の皇子と魔界を作る密約をむすびます。続く、廊下の段では、玉藻前のモデルと言われる皇后・美福門院も出てきて、玉藻前の暗殺を首謀しますが、玉藻前の得意技、光り輝く姿にあっさり負けてしまいます。

玉藻前によって帝は病が重くなりますが、訴訟の段では、なぜか皇子の愛人で、江口の遊女・亀菊が出てきて、皇子の命令によって訴訟を取り仕切ります。こんなんでいいんですかねえ、という組み合わせです。続く祈りの段はややこしく、亀菊が陰陽師・安倍泰成の願いで玉藻前を裁き、玉藻前の弁解を受け入れるものの、泰成の希望で祈祷の幣取りは許します。亀菊は皇子の旧臣の娘だそうで、皇子の謀反を諫めますが、皇子に殺されます。このあたり、別の物語が絡んでいるのだろうな、と感じましたが、話についていくのが精一杯でした。

その後は、安倍泰成の仕事(祈祷や幣取りではなく、獅子王の剣を使うのがポイントでした)で九尾の狐は退散し、那須野に逃げて殺生石になるという、普通の筋書きになりました。那須野へは桐竹勘十郎と狐が宙を飛んでいきました。外連(けれん)の面白さです。

最後に置かれた化粧殺生石は景事(けいごと)と呼ぶそうですが、これも外連で、狐が殺生石の周辺で七変化していく舞台は、語り・三味線・人形・囃子が楽しく、九尾の狐が人をたぶらかすのではなく、無邪気にさまざまな男女に化けながら、一人遊びを楽しんでいるように見えました。観客も拍手の連続で、「守らせ給ふぞめでたけれ」で終わり、玉藻前のストーリーが大団円で終幕した印象になりました。こういう趣向はとても好みです。能会で最後にある附祝言のような感じです。

推理小説を楽しむ気分で観つつ、腑に落ちない箇所はありましたが、最後に気持ちは晴れやかになりました。このような解放感は心中物の観劇後の気分とは違うものでした。

後で調べると、やはり二つの話を結びつけて脚色している作品だそうですね。ただ、最初の数段(中国と天竺での話)と「十作住家(じっさくすみか)の段」などが省略されていたそうで、省略がなかったら、違った印象になったのかもしれません。次回は省略なしの全段ぶっとおしを期待しています。

玉藻前伝説を知らず、観劇前に解説書を読んでいたカミさんは、最初から終わりまですべてが楽しかった文楽は初めてだと喜んでおりました。次は新春の国性爺合戦です。これも観るのは初めてですが、近松は自炊本があるので予習します。

長くなったついでの話ですが、下の狐の面は、文楽劇場の売店に置いてあって、じゃりン子チエでテツがかぶっていたのとそっくりな気がして、安いのでつい買いました。後で比べたら、ちょっと絵が違いました。型押し加工した紙に和紙を一枚貼って絵付けしただけの簡易な造りです。鍛金練習のモデルにするかどうかは未定ですが、作るなら、アルミでしょうか。でも、白面金毛九尾の狐だったら、銅に錫張りか真鍮かも。

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